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【COLUMN】キーキャップの昇華印刷に挑戦しました

ブランクのキーキャップを眺めながら、文字が自由に印刷できたらよいなと考えていました。
しかしキーキャップへの文字の印刷はなかなかに難しそうです。

キーキャップへの文字印刷(表記)にはいくつかの方法があります。キーキャップ自体の成型時に2色の素材を使って作る2色成型、レーザーを使ってキーキャップ表面を焼くレーザー印刷、現在の白文字のキーキャップによく使われるシルク印刷、そして今回挑戦した昇華印刷があります。

昇華印刷とは、専用のインクで印刷したシートと対象物を圧着し、高い温度で熱する事で、インクが昇華し、キーキャップの表面に薄く染み込む形で印字される方法です。キーキャップ表面に塗装する場合は、キーキャップ本体より柔らかい塗装が摩耗し、文字が消えてしまうことがよくありますが、昇華印刷の場合は、インクがキーキャップ表面に薄く染み込んでいる為、キーキャップ自体が摩耗しないと文字が消えないのがメリットと言えます。

アイロンプリントって昇華印刷かな?だったら印刷されたシートを使ってどうにかならないのかな?と考えていた矢先、ロードヒポキシスさんのページで昇華印刷にチャレンジされている事を知り、内容を読みながらチャレンジさせていただきました。私なりにやってみた内容を記したいと思います。

ロードヒポキシスさんのページはこちら
http://kou014.hateblo.jp/entry/2017/10/09/004130

注意:
この作業が可能なキーキャップは、PBTという素材に限ります。ABS素材のキーキャップは、融点が低いため、この作業を行うとキーキャップが溶けてしまいます。予めご注意下さい。
以下の作業を実施する上で、火傷、事故、火災が発生する可能性がありますが、その場合の責任は負いかねますこと、予めご了承ください。

まずは印刷する内容を作成します。キーキャップの、印刷部分の寸法を図り、それに合うように文字などを作成してゆきます。私は簡単にパワーポイントで作成し、PDFに変換しました。文字のみを作成したのですが、フォントは色々悩んだ末、Sinkin Sans というフリーフォントを使いました。なお色は、通常のプリンタと同様、白がありませんのでご注意下さい。

Sinkin Sansのページはこちらから
http://www.1001fonts.com/sinkin-sans-font.html

印刷したい内容が完成したら、アイロンプリント・ドットコムというショップで昇華プリント用紙への印刷をお願いしました。1枚374円+送料です。注文後1週間ほどで用紙が送られてきました。送られてきたものが写真の用紙となりますが、すみません、すでに切り取ってしまってます...

アイロンプリント・ドットコムのページはこちらから
http://www.ironprint.com/seisaku/syouka.html

昇華プリント用紙が手元に届く前に、写真にあるものを用意します。左の黄色いものはシリコンゴムです。キートップは凹みがある形状、そのままでは用紙をキーキャップ表面にうまく押し付けられないので、このシリコンゴムを使って密着させます。これはクッキング用の小さいケーキ型として100円ちょっとで売っているものを切って用意しました。ケーキ用に使う為、耐熱性があります。私が購入したものは220度程度まで耐えられるので、今回の作業では問題なく使えました。サイズは、小さいほうがキーキャップの印刷面より若干小さく、大きいほうは印刷面を包むような形です。
右にあるテープがカプトンテープという熱に強いテープです。これはアマゾンで数百円で購入できます。私は一番安いものを買いました。
これらは直接高熱にさらされますので、普通のゴムやテープは使わないでください。燃えたり溶けたりと危険です。

これに加えアイロンを用意します。普通の家庭用アイロンで、170-190度程度でるものが望ましいです。しわとり専用スチームアイロンなどは不向きかもしれません。なおスチームは使いません。

用意ができたら、作業開始です。
まず昇華プリント用紙から印刷したい文字などを切り出します。私はなるべく文字ぎりぎりのサイズで切り出しました。次に切り出したものにカプトンテープを貼り、用紙の印刷面とキーキャップ面が合わさるようにして、位置決めをしつつ、えいっと貼り付けます。テープはキーの下側に巻きつけます。
そして用紙の上に、先ほどのシリコンゴムの小さいほうにカプトンテープを貼り、キーキャップに貼り付けます。その上に大きなシリコンゴムを貼り付け、作業完成です。

写真では木枠の溝の中にキーキャップがあります。キーキャップにアイロンを押し付けると、ずるっとすべってキーキャップが飛んで行ったので、このように固定するものを作りました。

用意が全部整ったら、ついにアイロンを使っての印刷です。
私はアイロンの温度は高、スチームは切の設定としました。アイロンのサーモスタットが切れた時、一番温度が高いタイミングで、アイロンを持ち、上からキーキャップに押し付けます。比較的ぐっと力を入れている状態を保持しました。時間は1分20秒。時間になったら、アイロンを外します。キーキャップは高熱になっていますので、少し冷まして、テープをはがして、印刷を確認します。さてどうでしょうか?(上のキーキャップはすこしかすれてしまっています。押しと時間のどちらかが不足したのだと思います。)

印刷結果です。左の二つは成功したかな?右の二つは失敗したなというものです。右のMETAが汚れてしまっているものは、押しと時間が足らず、写りきれなかったものです(METAは成功しているのですが)Cは、アイロンを押し付けているときに、ずるっとすべってしまった結果となります。成功したものについても、押し付けが強すぎたのか、プリント用紙を切った形に、キーキャップ表面に跡が残ってしまっているものが多くありました。もう少し試行錯誤が必要です。

自分の好きな文字や絵柄を印刷でき、比較的安価なアイロン昇華印刷、しかし手作業の手間や時間とアイロンの重さ(私は筋肉痛になりました)手先の加減が必要な職人の技を要するなど、なかなか一筋縄ではゆかないとわかりました。うまく方法を考えて、またチャレンジしてみようと思います。

追記(2019/12/2)
このページについて、現在もアクセスが一定数ありまして、大変感謝しております。やり方はこのページでおわかりになるかと思っていますが、文字の位置決めの精度や、歩留まりの悪さなどはみなさん悩まれているようですので、今後も考えてゆきたいと思っています。

参考情報ですが、SignaturePlasticsの紹介動画の後半に、昇華印刷の機材と利用している風景が映っていました。治具の作りに関しては参考になりそうです。
https://www.youtube.com/watch?reload=9&v=DMVnrINvrG0

日本では、金井電器産業という会社が群馬にあります。元々沖電気の大型コンピュータなどの入力装置の製造部門が分離独立しています。この会社のWebサイトに文字印刷装置の概要が記されています。昇華印刷以外にも、UV、シルク、タンポと、主要な文字印刷の設備は網羅されています。
http://www.kanai-denki.co.jp/print.html#print_01

それ以外にも、キーボードスイッチやポインティングデバイスなども部品として製造されています。
http://www.kanai-denki.co.jp/pointing_device.html

この会社や、その他の日本企業の方々が、自作キーボード方面に目を向けてくれると非常に面白いと思っています。ご連絡、お待ちいたしております。